かぐら ◆Ccp.OZqu04w2 『狐憑き』
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母方の祖父に聞いた、伯父の子供の頃の話だ。
伯父たちが住んでいたのは、いかにも昔の田舎の家で、玄関を入ってすぐが狭い土間になっていた。
その奥に、父母と兄弟3人がやっと足を伸ばして寝られるほどの部屋が2つあり、ひしめき合うようにして生活している。
家の外に犬が一匹繋がれている。
そしてこの土間に、伯父は自分が世話をするという条件で、ウサギを飼っていた。
逃げないように、自分で工夫して囲いをこしらえてある。
見てのとおりで、決して裕福な暮らしではないから、
贅沢も言えずに随分色々なことを我慢したと伯父はいつか話してくれた。
動物の世話というのは、幼い伯父にとってせめてものわがままだったろう。
伯父は毎日、こちらを見向きもしないウサギをなでては、楽しそうに話しかけていたそうだ。
出来事というのは、伯父がいつものようにウサギの餌を取りに近所の草むらへ出かけた後に起こった。
炊事場で仕事をしていた母親が、表の犬の鳴き声に気づき、姿勢を変えて覗き込んだ。
異常な剣幕で、何かに吠えかかっている。
知らない人が訪ねてきたのかと思ったが、軒先でぼうっとこちらを見て立っているのは、伯父だった。
餌を取りに行ったはずの手には、何も持っていない。
どころか、泥にまみれていて、腕には硬い笹の葉でもまさぐったのか、赤い傷がいくつも浮き出ている。
どこで脱ぎ捨ててきたのか、靴も履いていなかった。
不審に思って近付こうとすると、いきなり伯父は飛びかかってきた。
母親を押し退けたかと思うと、一足飛びで土間を突っ切り、奥の部屋に泥だらけの足で跳び上がった。
引用元: ・【8月18日】百物語本スレ【怪宴】
伯父は、土間のほうへ向き直り、四つん這いになって母親を睨みつけた。
母親は最初ふざけているのかと思って、泥が飛び散った床に憤り、咄嗟に叱り声を上げて、伯父を土間へ降ろそうとした。
ところが、伯父は悪鬼にでも追い詰められて怯えるような、見たこともない形相で、
「フーッ」
と声を上げながら母親を拒み、部屋に入ることを許さない。
そのうちに兄弟も父親も帰ってきて、この奇妙な3匹目の動物を取り囲んだ。
何の騒ぎかと、近所の人間まで様子を見に来た。
誰もが息を呑んだことに、結局そうやって何時間も伯父は部屋の隅で怯え、皆を威嚇し続けた。
このとき伯父はまだ小学校低学年だったと思われるから、ここまでの演者にはなれないだろう。
この晩、なぜか停電でもないのに灯りが点かなかった。
そのわりに明るいと気づいた頃、表に月が上がっていた。
月明かりが開け放しの玄関から家族の隙間に割って入り、奥の部屋まで差しこんだ。
それがちょうど、怯えてひきつったままの伯父の目を照らした。
父親にはそれが、まるで暗闇に光ってこちらをじっとうかがう獣のように思われた。
さすがに蒼白になり、とうとう近所の宮司に無理を言って来てもらい、祓って頂いたという。
それきり、伯父は気を失うように眠ってしまった。
本人はこの日、餌を取りに行ってから、何をしていたか覚えていない。
私の祖父であるこの父親は、
「こりゃ狐だと、そのとき思った。動物に愛情深いと、つきやすいのかもしれない」
などと話してくれた。
【了】
十九本目の蝋燭が消えました・・・
かぐら◆Ccp.OZqu04w2さん、ありがとうございました
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