カケフ ◆yvskAxXiM6 様 『赤い印』
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僕の家には大きめの鏡がある。
野球の為だ。将来プロになることを本気で考えている。
毎朝、毎晩、鏡に向かってはフォームを確認し、変な癖をつけないように気を付けている。
鏡は玄関に置いてあって、殺風景な白い壁が映っている。
僕の他に映っているのはカレンダーぐらいだ。
その日は、部活を終えて他の部員と道草を食った後、心地よい疲労を感じて帰路に付いた。
もちろん、日はどっぷりと暮れて、街灯の明かりを頼りによ たよた帰宅した。
家に付くと、玄関の外明かりも点いていなかった。
朝、親が揃って出かけると言っていたことをぼんやり思い出した。
簡素な晩飯になると落胆しながらウチに入り、日々の習慣から鏡に向かった。
いつものように胸の前で腕を構え、いつものように投球フォームを確認する。
いつものように肩の位置、背筋、腰の捻りをチェックし、いつものように片足でバランスを取り、顎を引いた。
そこでふと、違和感を覚えた。視界の端に何か見慣れない感覚があった。
原因を探ろうと奇異な感覚を追って目を遣ると、原因が分かった。
カレンダーだ。
鏡に映るカレンダーのマスに黒いペンで×(バツ)と印されてあった。
8月12日、×。
違和感の元はもうひとつ。8月19日、赤、 ×。
何だろうと思い、振り返ってカレンダーを見た。
悪寒が走った。
ぞぞっと恐怖の戦慄が背筋を撫で上げる。
カレンダーは真っ白だ。
悲鳴が出そうになるのを必死で堪え、なんとか軽くかぶりを振ってもう一度鏡に目を遣る。
やはり、ある…
引用元: ・【8月18日】百物語本スレ【怪宴】
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それからの記憶はあまり定かではない。
普段通り学校へ行き、普段通り部活を終え、普段通り家に帰る。
ただ、玄関の鏡の前で立ち止まることはなくなった。
通り過ぎ様に見える、視界の端の黒い点には、全ての思考を停止させた。
点が、長く、線になっても、一心不乱に野球に集中した。
ただ、ボールを投げた。投げて投げて投げまくった。
頑張り過ぎたせいか、ときどき視界がぼやけた。
8月19日、早朝。
いつも通り家を出ました。歩きました。バスに乗りました。学校に着きました。
同日早晩。
僕の右手が、いつもよりずっと遠くに見えました。
しっかりとボールを握りしめた、僕の手。
赤い縫い目が……泣きたくなるほど、綺麗だった。
【了】
カケフ ◆yvskAxXiM6さん、ありがとうございました
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猫様がみてる ◆UiIW3kGSB.さん、第八十四話をお願いします
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