キツネ ◆8yYI5eodys 様 『池畔の電話ボックス』
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この話を語る前に。
特に何が起こるわけでもございませんが、念のため携帯電話の電源をお切り頂いた方がよろしいかもしれません。
なんせ、電話に纏わる怪異ですので・・・念のため。
あれは5年前の、お盆を過ぎた頃でしょうか。
私は大学のサークルの合宿で、とある山奥のバンガローに来ておりました。
丁度そばに大きな池を望み、10棟ほどあるバンガローのうち2棟ほどを借りて。
合宿というのは名ばかりで、気心の知れた仲間たちと釣りに興じたり、酒を飲みながらバーベキューをしたり、花火をしたり。
幸い晴天にも恵まれまして、まあ、羽目を外して遊ぶための小旅行のようなものでした。
さて、日も暮れて花火でひとしきり盛り上がった後のこと。
片づけを終えた私が男性陣の泊まっているバンガローに戻ると、女性陣も集まっており、みんなが思い思いに缶ビールやチューハイを傾けながら雑談に興じておりました。
戻ったばかりの私と後輩のAさんが冷蔵庫からお酒を出して、皆の会話に混ざった時でした。
話題はちょうど、すぐそばの池の話になりまして、地元出身のBくんがこの池に纏わる話をしてくれておりました。
いわく、その池には戦後、大量の戦車が沈められただの。
池の周囲の山道ではよくバイクがガードレールを越えて池にダイブするだの。
はたまた、池に身投げをする人も少なくないだの。
果ては、その遺体がなかなか上がってこないだの。
引用元: ・【8月18日】百物語本スレ【怪宴】
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まあ、バイクが池ダイブというのはネタだったのでしょうが、なるほど。
昼間に池の桟橋で釣りをしている時に覗き込んだ池は相当な深さのようで、それらの話に信憑性を感じたのを覚えています。
どうやらこの池というのが地元のローカルな心霊スポットだったようで、話題は自然、怪談話へとシフトして参りました。
そうして、ひとしきり盛り上がった後。
酔っ払ったノリと室内の空気のせいか、誰かが「肝試しやろう」と言い出しまして、そのまま肝試しをする流れとなりました。
ルールは、
1.池の周りの山道を1周して帰ってくること
2.証拠として、途中にある電話ボックスからバンガローに電話すること
3.クジで男女1人ずつのペアを組んで行くこと
3つ目は何やら提案した仲間の下心が見え隠れするものでしたが、ともあれ、私は後輩のCと回ることになりました。(余談ですが、提案した奴は”ハズレ”で1人で回る羽目に)
さて、いよいよ最後の組・・・私たちの番となりました。
バンガローが並ぶ敷地から山道に出ると、木々の圧迫感と崖に挟まれ、思いのほか恐怖心を煽られます。
私は時折Cさんに「後ろ!」「今そこでガサッて!」などとお茶目な冗談を投げかけながら、Cさんはその度に「ふざけんな!」「コロスコロスコロス…」などと会話のキャッチボールを楽しみつつ、歩を進めて行きました。
半分、いや、四分の三ほど回った頃でしょうか。
眼前に黄緑色を帯びた光が見えて参りました。
それは暗闇の中にポツン、と佇む、例の電話ボックスです。
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私とCさんは明かりに安堵しながら、電話ボックスに入りました。
すぐさま私は事前にバンガローの電話番号をメモしておいた切れ端を取り出し、受話器を上げます。
長年財布の中で眠っていたテレフォンカードを入れ、番号をプッシュ。
プルルルルルルル・・・プルルルルルルル・・・プッ
相手が受話器を上げたーーーその時でした。
ばちん!という板に手を叩き付けたような音と、「い゛っ・・・!」という形容しがたいCさんの悲鳴。
慌てて振り返ると、怯えたCさんの顔。
その視線をゆっくり辿ると・・・
そこには、上半身を電話ボックスの入り口に押し付けた女が、じぃっ、と中を覗き込んでいたのです。
これでもか、と見開いた赤い目で、じぃ・・・っと。
女は、決してこちらから目を離すことなく、電話ボックスに張り付いたままゆっくりと倒れ込んでいきます。
そして、女の動きに合わせるかのように、きィー・・・っという爪で引っ掻くような甲高い音が響いたのです。
・・・・・・なぜか、受話器の向こうから。
ふと、我にかえり電話ボックスから飛び出しました。
そこには、水溜りがあるだけ。人の気配なんて微塵もありません。
冷静になったのか、はたまた、気が動転していたのか。
私はなぜか、「誤って池に落ちた人が自力で這い上がって来たのかも」という不安に駆られまして、しばらくその辺りを捜しまわりました。
やはり、人影は見つからず。
そこには息を切らせた私と、足がガクガクして立ち上がれないCさんだけが電話ボックスの照明に照らされているばかりでした。
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それからCさんを背負ってバンガローに戻った私は、戻りが遅い私達を心配して出てきた仲間に事情を話し、管理人さんがいる建物に向かいました。
どうしたの?と出てきた管理人さんに事情を話して、警察に連絡した方がいいか伺ったのですが、管理人さんはなぜか苦笑しながら「あー、あんたたち『も』見たのねぇ」と仰います。
拍子抜けした私達に、管理人さんはポツリ、ポツリと語ってくれたのですが・・・
あの電話ボックスでは私達以前にも、同じように女性を見た人が何人もいたのだそうです。
最初のうちこそ管理人さんは警察に連絡したりしていたそうですが、その度に付近を探しても女性は見つからない。
そんなことが続き、今では地元の人間は気味悪がって誰もあの電話ボックスには近づかないのだそうです。
その最初の目撃談から前後して、池から女性の遺体が上がったそうです。
明け方に桟橋で釣りをしていた男性が見つけたのですが、ちょうどその釣り糸に絡まるような形で・・・・・・浮き上がってきたのだとか。
そうして、最後に管理人さんはこう、付け加えました。
「あの死体ねえ、腕がこう、釣り糸を掴んだように絡まってたのよ。そのくせ、糸の先の針が、無くなっててねぇ」
針。
あの時受話器から聞こえてきた甲高い音は、電話ボックスを引っ掻くような音でした。
そう、ちょうど針でプラスチック板を引っ掻いたような・・・・・・。
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果たして、私が見たアレは何だったのでしょうか。
それとも、単にお酒に酔った2人が同時に見た幻覚だったのか。
以上が私の経験した不思議な出来事でした。
えーと、最初の携帯の電源の話でしょうか?
いえね、実は過去に何度かこの話を友人や後輩、職場の同僚に語ったのですが・・・そのうち2度ほど、語っている場や相手に電話が掛かってきたのだそうで。
なんでも、受話器の向こうからキィーーーッ、と甲高い音が聞こえてきたとかなんとか。
ですから・・・・・・一応、念のため。
【了】
キツネ◆8yYI5eodysさん、ありがとうございました
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メタルスライム◆LuWpVnhAYsさん、第三十一話をお願いします
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