わたくし ◆Zdj8zv6ZTc 様 『ハブが来た』
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帰省したのち、親戚一同が集った夜のこと。
わたくしに振られる話題と言えば「お仕事はどう?」だの「嫁こはまだか?」だの。
お得意の営業酒をしながら、ああ息苦しいと喫煙のために席を外しました。
わたくしの郷里は岩手県某市の山中にあり、陽が落ちれば家の明かりのみが頼りで。
開発の流れから少し置き去りにされたような、まあ、寂れた場所でございます。
酒宴の喚声と、エンマコオロギの鳴声とを聴きながら一服していると、
「疲れちゃった?」
と、背中越しに女性の声があります。母でありました。
今年で五十を数える方で、思えば苦労ばかりを掛けて来たわたくしで……。
「あんたが帰って来たのも久しぶりだからねぇ」
母が来たのだからとわたくしは煙草を揉消そうとしますと、
「駄目々々。煙草は消したらいけない」
「え、だってお母さんは煙草吸わないだろう?」
引用元: ・【8月18日】百物語本スレ【怪宴】
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怪訝でありました。吸うのも良いけど程々にしなさい、が母の常であったもので。
ところがうっすらと眉根にしわを寄せた母がポツリと言うには、
「ハブが来てるから点けたままにしなさい」
「はぶ? 蛇?」
ハブが煙草の煙を嫌がるとは聞いた事がありませんでしたが、
「嫌われてるって意味ではおんなじよ。でも、ほら、御盆だからねぇ」
このことで蛇とは違うハブが来ているのだと分かりました。
御盆時には地獄の釜の蓋が開くと申しますが、そのような者なのでしょう。
「……この時期は嫌だね。怖いことばっかりだ」
「だから、あんた、帰ってこないんでしょう?」
正直なところ、まさしくその通りでありました。
言いながら、わたくしの視界の隅に黒と緑が合さった斑模様の、何ともいえない異形の、
ぬめぬめとヒルのように蠢く物体が地面をのたうっておりまして……。
「嫌だ。うん、帰ってくるなら冬が良いよ」
いつもより長く吸い込んだ煙を、下向きに吐き出してやったものです。
【了】
二十五本目の蝋燭が消えました・・・
わたくし ◆Zdj8zv6ZTさん、ありがとうございました
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雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQさん、第二十六話をお願いします
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