【第七十七話】 ヤプール ◆MY/4W00M4M様 「本物の主演女優」
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私は大学時代、いわゆる映画研究会のようなサークルに所属していて、定期的に作品を撮っていた。
夏のある日、そろそろ季節的にもホラーもの撮ろうぜ、ということになった。
といっても、一本のストーリーものではなく、あるスポットに肝試しに来たら偶然撮れちゃったという体の、
いわゆる「呪いのビデオ」の捏造品。
ビデオの主役たる幽霊役に抜擢されたのは、まだ入部して間もない1年のKさんという女の子。
長い黒髪、スラッとした体型、ゆっくりとした動作、美人だがどこか儚げな、ストレートに言えば幸の薄い顔立ち、
まさに幽霊役をやらせるのにはうってつけだった。
さすがに初主演で幽霊役をやらせるのはどうかと思ったが、意外なことに彼女は快諾。
「幽霊だって主役ですもんね!頑張らないと!」
と、何故か妙に張り切っていた。映るのは一瞬なんだけどなぁ…。
そして夜9時過ぎくらいに撮影は開始された。
長い髪を前に垂らし、白い服を着て、どうせ映らないであろう細部まで幽霊メイクをした彼女は、
もはや、ザ・幽霊とも言えるくらいリアルだった。
撮影の流れとしては、車で山の中腹にある廃墟まで肝試しに行く道中、カメラを回していたら霊が映り込む、
というごくありふれたもの。
引用元: https://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1377258497/
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指定されたポイントに来ると、Kさん扮する霊が突然車の目の前に飛び出してきた!
そして、そのまま坂を上り、カーブの死角へと消えていった。
彼女がそんなスタントじみた演技をするとは思わずリアルに驚いたが、結果それが自然な演技につながった。
その場で映像をチェックすると、霊の方もかなり自然に映っていた。
映像を見ながら盛り上がっていると、
「ちょっと私も入れてくださいよ~」
と、幽霊役のKさんが坂を上ってきた。
そして映像を覗き込むと、「えっ?」っと言って口を押さえた。
メイクのせいで顔色は分からないが、体は小刻みに震えていた。
皆は、
「ちょっとKちゃん体張りすぎだよ~」
「あんま無茶すんなよ、初主演が遺作になったら笑えんから」
などといって名演をたたえたが、当の本人は「は、はい…」と力なく答えるだけだった。
そして撮影はこれでお開きということになり、山を下って帰路へ。
道中、具合の悪そうなKさんを見ながら思った。
…みんなホントに気づいてないのか?この違和感に。
が、結局この時の映像は満場一致でお蔵入りになり、
その後夏が来るたびにホラーものの企画が持ち上がるが、その場にいたメンバーはみんな反対していた。
…なんだ、みんな言わないだけで結局気がついていたのか。
お わ り
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