【第七十四話】狗◆NikuJ1/fzk様
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「よく視えて」しまうOには困ったものだった。
仕事柄、帰れなくなりよく仕事場で仮眠をとることがあった。、
ある夜いきなり人の布団に入ってきて、ビックリして文句を言うと
「だってあっちで寝てるとアレがずっとしゃべりかけて来て寝れねーんだよ!」
といってそのまま一人で眠りについたり
イライラした顔で喫煙室に入って来たので理由を聞くと
「足元ゴロゴロされると気が散って集中できん!」
『なにが?』
「生首が!」
と事も無げにいう奴だ。
一緒に働く身にもなって欲しいものだ
まあ私も霊体験のようなものは多少あったが、そのころにはほぼ何も感じなくなっており
基本的には彼が視えているだけだから構わないが。
だが一度だけ、彼のその体質に巻き込まれたことがあった。
引用元: https://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1377258497/
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あいも変わらず残業続きの夜。
残りの仕事の終わり見え、とりあえず今日はあがろうという事になり
最後の私とOで戸締りをして帰ることにした。
火の元も確認をし、戸締りをし
さて2人で帰ろうか、とエレベーターホールで下を押して待つが
一向にエレベーターがやってこない。
仕事の終わりも見えてきたので、ちょっと機嫌のよかった私たちは
「たかだか5階だし。んじゃ、健康の為に歩いておりますか」
と横の階段で下まで下りよう、という話になった。
Oと私は趣味が合い、よく映画やマイナーな音楽の話をしていた
その日もOがレンタルで借りた映画の話で盛り上がりながら階段を降り始めた。
その時いきなりOが「・・・ん」と一瞬声をあげた。
「でさ、その映画の何が凄いってさ~」
が、そのまま何事もなく階段を降り始める。
まあその映画は俺も好きなので、話を続ける。
だが、階を降りるごとにちょっとだが、ピク、ピクッと体が振れる。
あ、こりゃなんかあるな。
その頃になると、Oの反応で何かがあるのが判るようになっていた。
ただ、そういう場面でも、大体過ぎ去った後に
「あそこに立ってたんだよね~」と話すし、
本当にまずい場所だったりすると「ちょっと他の道から行こうぜ~」と誘導してくれる。
奇天烈な奴ではあるが、一応周りにも気を使ったりする事もある男だった。
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なので、口に出さない以上はたぶん大丈夫だろう。
そんな風に思っていた。
「で、日曜に買った新譜がさあ~」
なるべく気にしないフリをしながら二人とも階段を降りてく。
「今度見に行くつもりの映画だけどさ~」
「え、あのアーティスト肯定しちゃうわけ?」
「デートでその映画選択はどうよw」
他愛ない会話が続く。
だが、ある所でOの足がピタリ、と止まる。
後ろからの姿だが、さっきまでとはさすがに様子が違う。
明らかに体がこわばっている。
『おい、O』
さすがに心配になったので一声かけてみる。
「・・・まあ、いいか」
時計をみてから息を吐くと、また歩き出す。
なんだ?なんなんだ?
気にはなるが、Oは後ろの俺に振り返ることもなくズンズンと階段を降りていく。
おいていかれるのはさすがに怖い。
俺も足早にOを追いかけた。
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「ふう」
階段をおりきりホールを抜けてエントランスを出ると、
Oはちょっとほっとしたような感じになり早足で歩き始める。
『おい、なんかあったんだろう?』
Oについていきながら話しかける。
「うん、まあねえ・・・」
『何が見えたんだよ』
「えっと・・・ねえ」
Oは歩みとは別にゆっくりとしゃべりだした
「さっきの階段の所にね、へーんなオッサンが角に立ってるのよ。
あ、君には見えなかっただろうけどね」
確かに俺には見えてなかった。
「まあいつものことかなあ、ってそこの横通り過ぎるとね、しゃべりかけてきたのよ
【1】、ってね」
「で、気持ち悪いから通り過ぎたけどさ。また階段下りると、同じように角に立ってるのよ
おんなじオッサンが。
でね、またおんなじ感じにしゃべりかけてくるのよ。【2】って」
「まあだからどうした、って気分になってまた降りるんだけどさ、
1回りするとまたいるわけよ、同じ角にさw。で、またいってくるわけよ。【3】って」
「もうなんか途中でどうでもよくなってきてさ、あんまり気にしなくなったけど
もう降りるたび降りるたび、ずーっとカウントしてるんだよね」
背筋にゾクりと悪寒が走る。
全くそんなことは知らなかったし、何も気づかなかったがそれを今聞かされるとさすがに焦る。
「でもね、最後の所に行ったらさ、【次が最後】って言うわけよ。
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だからちょっとさすがにビビっちゃってね。足止まっちゃったわけ。
最後って、じゃあ次の角にはなにがあんだよってw
でも、下りてみたらなんもなくて無事ゴールインでよかったよかった、とw」
『よかったよかった、って・・・・お前、なんかあったらどうするつもりだったんだよ!』
Oは歩みを止めて、いきなりこう言った
「時計見てみてよ」
時計を見て俺は愕然とした
会社を出たのは覚えている。11時過ぎ。
部屋は5Fのフロア
そして今は・・・・11時30分まえ・・・
「気が付かなかったっしょ。ずーっと歩いてたんだよ、俺たち。」
『う、そ・・・』
「俺たちずーっと話してたじゃん。ウチの会社5Fだよ?
1F下りるのにそんなに時間かかると思う?」
確かにくだらない話をずーとしていた。その記憶はある。
でもまさかそんなに時間がたっているなんて…
「だからね、もう行くしかないかな、と」
『でも、大丈夫だったからよかったけどさ・・・』
「まあいつもいるって感じじゃなかったし、そんなにヤバいって感じでもなかったし。
それよりさ、これ以上遅くなるのは流石にマズイ、とおもったんだよね」
一息ついてこう言った
「これ以上遅れると、電車の間隔20分ごとになるんだよね、俺んち」
【了】
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