【第六十六話】
「車」1/2
それは、就職して一人暮らしを始めた頃の話だった
会社から紹介された1kのアパートは、少し古臭いが家賃が安いこともあって、すぐに気に入った
…それに気付いたのはいつだったか。いつからか、毎晩午後10時頃にアパートの駐車場から爆音が響いてくるようになった
運悪く駐車場は自分の部屋の真下、加えて自分は耳がいいときた
音が響いてきて駐車場でしばらく停まってから遠くへ去っていく。誰かを迎えに来ているのかとも思ったが、ドアを開閉する音は聞こえない
それなのに律儀に、毎晩毎晩やってくる。うるさいなあ、普通暴走ならもっと遅い時間じゃないの?…そんな感想を抱いていた
ある日、地元出身の同僚に「毎晩毎晩うるさいんだ」と軽く愚痴ったら、同僚の顔色が音を立てて青ざめた
「それ、絶対に運転席見ちゃダメだよ!!!!!」
悲鳴のような声にこちらの方が驚いた。同僚の声に、他の社員が集まってくる
「何だ何だ」「どうした」と声をかけてくる社員に同僚が説明する。どうやらその車は、地元では有名な話らしかった
20年近く昔、アパートの近くにまだ田んぼが多かった頃
乱暴な性格のため村八分になり、挙げ句隣県の暴走族に入って暴走行為を繰り返していた若者が居た、と
その若者は深夜の暴走のため夜10時頃にこちらを発っていたが、ある日峠道で運転を誤り、帰らぬ人となったそうだ
引用元: https://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1377258497/
「車」2/2
「…それからだよ、町の中をうろつく車が見られるようになったのは」
「霊感のある人か…死期の近い人にだけ見えるみたい…目が合ったら連れて行かれちゃうんだって」
口々に話す同僚たちの顔は、真剣そのものだった
「目が合わなきゃいいんなら、部屋から見ても大丈夫?」
「絶対ダメ。だって噂では、首が上向いてるって話なんだよ」
「首が、上???」
「180度折れてるらしいの。その姿勢で亡くなってたんだって」
そこまで聞いてから、ふと気付いた
「しかし幽霊だったなら、一体誰を乗せてるんだろう?」
「……え?何ソレ」
「だって毎晩うちの部屋の真下に車停めて、誰かを待ってるみたいだったよ?」
「え?今までそんな話聞いたことなかったケド…?」
「………え?」
翌日には退職願を提出し、荷物を纏めた
彼は今もあの町をさまよっているらしい
終
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