【第五十三話】 妖狐 ◆YEG17px67. 様 「稀少な幽霊」
大学生の頃の話です。
私は当時、学生専用のアパートで一人暮らしをしていました。
ある秋の晩、夜中に友人と呑みに行った帰りのこと。
その友人は私とは別の学生アパートに住んでいたのですが、そのアパートのある場所は大通りから少し外れた街頭の少ない入り組んだ細い道に建っており、
一年以上住んでいる友人ですら「帰り怖ぇ…」と言うほどの嫌な雰囲気がありました。
その日も「帰りマジ怖いから近くまで一緒に帰らないか」というので、「大通りまでならどうせ一緒だしいいよ」と軽く承諾しました。
私のアパートはその細い道を通り抜けても帰れる立地でしたし、小さい頃からその手のモノは人間と見間違う程よく遭遇していたので、何だかもうどうでも良くなっていたのです。
怖いけど出る時ゃ出るんだから仕方ねぇわ、という一種悟りのような諦めのような心境。
おわかりいただける方も、今宵の参加者の中には少なくないと思います。
そして、帰り道。
出ました、案の定。幽霊が。
それは電信柱の下で顔を覆ってしゃがみこんでいたのですが、私は別の意味で驚きました。
普通に現代的な服装をしたチャラそうな男の幽霊なのですが、白黒とかではなく、透けているわけでもなく、色がないのです。
そして距離感も遠近法も無視して、大きさも今ひとつ判然としない。
顔はブラックホール状態でわからない。
しかもユラユラしてるだけで全く動かず、何がしたいんだかすらまるで分からない。
初めて見るタイプのモノだったので、思わず凝視する私。
「何だアレ!アレの横通んのヤダ!!」と愚図る友人。
それでも何のアクションも起こさない無色幽霊。
アレの横通らないと帰れないんだから見えない振りして通り過ぎろ!と友人に言って早足で通り抜けましたが、何度か振り返ってもソイツは角を曲がって視界から消えるまでしゃがみこんでいました。
その後あの珍種の幽霊に遭遇する事はありませんでした。
正体も全くもって不明。
しかしそれより何より、アレを見た瞬間私に抱きついて来た友人に恐怖して悲鳴が出かけたことの方が、なぜか友人間でのウケが良いのは釈然としません
[了]
引用元: https://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1377258497/
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