【第四十七話】
「夏」
大学入って知り合った先輩が偶然同じアパートということで、急速に親しくなった
先輩は入学と同時に生活費のためと始めたパチンコ屋でのバイトが性に合っていたらしく、上からも気に入られ、「まさに天職」とよく言っていた
そんなある冬の日、インフルエンザが蔓延していたこともあって駐車場整理の人手が足りなくなり、急遽先輩がそちらを手伝うことになったそうだ
雪のちらつく中、これでもかと防寒対策をした先輩は、通路に立って車の誘導を始めた
特に問題なく仕事をしていたが、そのうちやけに暑くなってきたそうだ
汗が吹き出て喉がひりつくように渇き、最初先輩は「熱でも出たんじゃないか」と思ったそうだ
しかし寒気もない。体の内側が暑いのではなく外が暑いと思った先輩は、慣れない仕事をして緊張しているせいだろうと、上着を脱いだ
それでも、雪が降っているというのに涼しくならない
喉の渇きが限界に達した先輩は、ジュースを買いにその場を離れた
最初はそうでもなかったが、自販機の前に着く頃には寒くて寒くて仕方がなかったそうだ
でも持ち場に戻ると暑い。次第に先輩は暑さでぼーっとしてきたのだという
暑い…暑い…と譫言のように繰り返しながら、少しでも涼を取ろうと服を脱ぎ始めた先輩の異変に気付き、同僚が駆けつけて来たそうだ
「…俺は覚えてないんだけど」
そう前置きし、先輩は言った
先輩は同僚の腕を掴み、
「あつい…あついよ…たすけておかあさん…」
と言ったのだという
救急車で運ばれた先輩の病名は、熱中症と脱水症状だった
「今は駐車場作り直して通路になってるけど…やっぱり、うちの店になる前にあったらしいよ、車内放置」
それ以降、あれほど天職だと言っていた先輩はパチンコ屋のバイトを辞め、小さな企業に就職した
先輩は、今でも時々あの暑さを思い出すという
終
引用元: https://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1377258497/
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