【第三十六話】 妖場K ◆ws148WRg2A 様 『縁の下の悪意』
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転勤族であるA夫妻は、ある年S県に引っ越しをしたそうだ。
社宅扱いで格安で一軒家に住めることになり、当初は喜んでいたのだが、段々嫌なことが起こりはじめたらしい。
身体がやけに重い、怠い。
最初は引っ越し疲れかと思っていたのだが、日を重ねても良くなるどころか悪くなる一方だった。
それに部屋もなんだか薄暗いし、湿っている。
カビ臭い。
食べ物がすぐに傷む、腐る。
虫が多い。
絶えずどこかしらに怪我か痣を作る。
一つ一つはとても小さな事なのだが、それらが幾つも重なるにつれ無性にイライラして喧嘩ばかりする様になった。
ある日、妻は家の中で羽蟻が飛んでいるのに気が付いた。
その時はすぐに処理して気にも留めなかったのだが、次の日も次の日も羽蟻が部屋の中に飛んでいるのを見つけ、A夫に相談した。
夫は、白蟻がいるのかもしれないと駆除会社に電話をしてくれて、業者が入ることとなった。
引用元: https://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1377258497/
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約束の時間ぴったりに業者が来た。おっさんと若い男の二人組だった。
説明を受け、まずは検査をしますと言うことで、作業着姿のおっさんが縁の下に入りこんだ。
写真を撮り、該当箇所を確認していただきますと若い男が補足をする。
しかし、おっさんが潜ったきり戻ってこない。
「Kさん? どうしました?」
残った男が声を掛けたその時、
「おああああああああああああああ!!!!!!」
絞り出すような叫び声が響いた。
直後、ごとごとと音が近づいたかと思うと、おっさんが転がるようにして飛び出して来た。
顔を真っ赤にして大量の汗をかき、喉元に手を当てつつぜいぜいと息をしている。
「どうしたんですか」
恐る恐る聞くと、おっさんは物凄い形相で夫に掴み掛かった。
「どうしただ? とんでもないもん見せやがって! ふざけんじゃねーぞ!!! 」
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怒鳴り散らすおっさんを引き剥がし、なんとかなだめる。
しかしおっさんは怒りが収まらない様子で、
「悪いけど、この仕事なかったことにしてくれ」
と、吐き出すようにして言い放った。
「あんた、ここ持ち家か? 」
ふと、おっさんが尋ねる。A夫妻が違うと返答すると、
「じゃあ、すぐ引っ越した方がいい。縁の下は見るな」
とだけ言い、帰ろうとする。
慌てて皆で引き止めた。
とにかく何があったのか、聞かなければ話にならない。
おっさんは中々口を割らなかったが、A夫妻がこのままなら訴えるぞ、と半場脅すようにしてようやく話をしてくれた。
縁の下に入って検査をしながら段々奥の方へ進んだら、ライトの明かりに反射する物が見えた。
近づいて見ると、それはハサミだった。
ハサミが地面に刃を向けて突き刺さっていた。
それは、恐らく百本以上あったと思う。
そこら一帯にハサミが突き刺さっていて、異様な空気だった。
かなりの時間そこで呆けていたようだが、試しに一本だけ引き抜いてみた。
持ち手の所に長い黒髪がごっそりと巻き付いていて、思わず放り投げてしまった。
とにかく一旦外に出ようとしたら、足を掴まれて転んでしまった。
振り向いたら、長い髪の女がのし掛かって来て首を絞められた。
もう駄目だと思った瞬間、同僚が自分を呼ぶ声が聞こえ、とっさに近場のハサミを引き抜いて女の顔に突き刺した。
そうしたら、その女は目の前でどろりと蝋が溶けるようにして消えてしまった。
後は必死に逃げ出して来た。
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俄かには信じられない話だった。
しかし、おっさんの首元を見て納得せざるを得なかった。
そこには、赤黒く手形が残っていたのだ。ちょうど首を絞められた様に。
業者を見送ると、A夫妻は引っ越しの準備を始めた。
そして夜は知人宅やホテルを泊まり歩きながら転居先を見つけ、逃げる様にしてその家を去った。
現在もその家はS県にある。
【了】
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