【第八話】 のん鬼 ◆rXpNDG7vbE 様 『黒い木刀』
(1/2)
会社の後輩のT 君が帰宅途中、子猫を拾った。
翌日、会社から戻ると子猫が部屋からいなくなったのだという。
窓もドアも鍵が掛かっていた。子猫が潜り込めるような穴など、部屋にはない。
まさに密室で子猫が忽然と姿を消したのだという。
T 君が一緒に探してくれないかと頼ってきたので、会社帰りにT 君の自宅へ向かうことになった。
T 君の自宅は木造六畳のボロアパートだったのだ。
部屋に入り一通り探したが、子猫が逃げ出せるような穴は発見できなかッた。
「T 君、このアパートはペットの飼育は当然禁止だよね?」僕が尋ねると、禁止ですとT 君が答えた。
「子猫の存在に気づいた大家さんが、君が留守の間に合鍵を使って部屋に侵入、子猫を持ち去ったんじゃないのか?」
それはあり得ないとT 君が反論した。
「大家さん自身、猫を一匹飼っていて、猫好きです。
大家さんは不法侵入するような短気な人ではなく、温厚な老人です」
引用元: https://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1377258497/
(2/2)
だったら子猫は何処へ消えたのだろう?
お手上げ状態でふと上を見ると、天井近くの棚に木刀が飾ってあるのが見えた。
普通の木刀ではない。先端にいくほど太くなっている、宮本武蔵が佐々木小次郎との決闘で使用したとされる櫂木刀だ。
それは蛍光灯の光を反射して、黒光りしていた。
「T 君、君は剣道でも習ってるの?」
「いいえ、なんでそんなことを聞くんですか?」
「だってそこの棚に黒い木刀が飾ってあるから」僕が棚を指差すと
「やだな先輩、あれは木刀なんかじゃないですよ」
そういうとT 君が木刀を棚から下ろし、首の後ろに当てた。いきなり黒い木刀がΩの形にグニャリと曲がった。
僕がビックリして見ていると、T 君が笑いながら言った。
「半年前に買った時は30cmほどだったのに、凄い成長力ですよ ‥‥‥
‥‥‥アナコンダはッ!w」
今まで後輩だとばかり思っていたT 君が、人の形をした得体の知れない闇のように思えた。
赤い舌をチョロチョロ出す木刀を尻目に、急用を思い出したと嘘をついて、僕はT 君の部屋を後にした。
ほどなくして T 君は会社を辞めてしまった。
彼が今どうしているかは知らない。
【完】
コメント