キツネ ◆8yYI5eodys 様 『空き家の落書き』
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小学生の時分と言いますと、いやはや、怖いもの知らずと言いますか、大人になってからはやらないような遊びに興じるものでございます。
かく言う私も小学生の頃には近所の子供たちとヘビが出るような山の中に秘密基地を作ったり、虫だらけの洞窟を探検してみたり。
山沿いの田舎町だったこともありまして、今思うとゾッとするような場所で好奇心のままに遊んでおりました。
中でも私達が一番熱心だったのは探検ごっこでございまして、仲間の誰かが少しでも面白そうな場所・・・・・・
1人で行くには少々勇気がいるような場所を見つけると、すぐさま皆で乗り込んでいったものでございました。
さて、あれはいつのことでしたか。
仲間の1人が面白そうな場所を見つけて参りました。
町外れの廃屋。
もう何年も前に住んでいたお婆さんが亡くなり空き家になった・・・・・・確かそんな廃屋だったと記憶しております。
当時は学校の怪談、今で言う学校に纏わる都市伝説が子供の心を鷲掴みにしていた時代だったこともありまして、私達は誰も反対することなく探検に向かおうという話になりました。
いやはや、なんとも罰当たりと申しましょうか、不法侵入という概念を持っている今では決して考えられないような場所を選んだものだと、お恥ずかしい限りでございます。
いよいよ探検の日。
私達一行は祭りの露店で売っているような粗末なライトや、武器、と称し途中で拾った木の棒なんかを手に町外れまでやって参りました。
問題の廃屋は鬱蒼と茂る藪の中に隠れるように立っておりまして、カラスが数羽、不気味に鳴いていたのが印象的でした。
お世辞にも家と呼ぶには粗末な、さながら小屋とでも言った方が適切な2階建ての木造の建物。
その入り口側と思しき壁は無残にも崩れて1階部分は瓦礫の山と化しておりました。
引用元: ・【8月18日】百物語本スレ【怪宴】
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その雰囲気に気圧されながらも、私達は強がりを口にしながら誰からともなく入っていきます。
今にも崩れそうな木造の階段の先には、日も高いのに不自然なほど真っ暗な空間がパックリと口を開いておりました。
皆が2階に上がり思い思いにライトを点けて照らすと・・・・・・
中は家財道具が荒らされた残骸やゴミ、落書きなどで燦々たる光景が広がっておりました。
きっと田舎の不良や心無い人が荒らして行ったのでございましょう。
雰囲気に気圧されながらも、私達は仲間にみっともない姿を見せたくないという意地か、はたまた不安を掻き消すためか。
どんどん、どんどんと奥へ進んで参ります。
そうして最後、突きあたりの部屋。
湿気とカビ臭さが広がる和室だったと思しき部屋に着いた時でした。
「ぎゃッ!!!」
と仲間の一人が潰れたような叫び声を上げました。
何事か、と彼がライトで照らした方を見ると、そこは白い壁。
そこには小学生が描いたような、それでいて妙に不気味な男の子の絵と・・・・・・
―――たかしくんはボクシングでしにました。
というドス黒く、おどろおどろしい文字が壁一面に踊っていたのです。
なんだよ、ただの落書きじゃん。
誰かがそう言うと、急に空気が軽くなりました。
ちょうど仲間に『たかし』という名の子もいたためか、私達は口々に茶化しながら、足取りも軽く明るい雰囲気で廃屋を後にしました。
ですが・・・・・・。
憐れ、「たかし」くんはその日から、当時人気だったゲームのせいでエビワラーと呼ばれるようになったのでございます。
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そんなことがあって数ヶ月経った頃でございました。
・・・・・・その「たかし」くんが亡くなったのは。
電話を受けていつになく神妙な顔で私に話しかけた父の顔と、それを聞いて今一つ現実味が湧かなかったのを未だに覚えています。
これは後に人から聞いた話や、後年、新聞のバックナンバーで調べた事を総合した話なのですが・・・・・・
たかしくんは焼死だったのだそうです。
それも、あの、例の廃屋で。
ご家族の話ではその日、たかしくんは1人で探検に行くと言って出かけ、例の廃屋の焼け跡から遺体で見つかった、と。
当時の新聞と消防団の親戚の話では、火元はあの崩れそうだった階段。
たかしくんは2階の一番奥の部屋、ちょうどあの落書きがあった部屋の押し入れの中に隠れるような形で、焼け跡から見つかったのだそうでございます。
階段に火が付き逃げ場のない中、それでも逃れるために奥へ奥へ。
最後に押し入れの中に隠れたのでございましょう。
その恐怖を慮るだけで、今でも胸の奥がグイグイと締め付けられます。
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それから何年も経ちまして、大学の講義を聴いていたある日のこと。
その講義は法医学に近い内容の科目で、教授が様々な死因の所見について解説しておりました。
その中の焼死の項目で、あのたかし君のことを連想して、ざわざわと酷く嫌な気分になった時です。
ふと教授が、ある焼死体の特徴的な外部所見について説明を始めました。
拳闘家姿位。
熱で骨格筋、特に屈筋という関節の内側の筋肉が収縮して関節が曲がる現象。
特に焼死体の腕の部分はすべての関節を曲げたような状態になり、さながら拳闘家、いわゆるボクサーが構えているような格好になるという現象。
分かりやすい例では小学生のトラウマ漫画、はだしのゲンを読んだ方はそういった描写を見たことがあるかもしれません。
この話を聞いた時、私はサッと血の気が引くのを感じました。
―――たかしくんはボクシングでしにました。
いえ、きっと意識のし過ぎなのでしょうとは思います。
ですが・・・・・・あの落書きとの符合。
果たしてあの落書きは一体何だったのでしょうか?
今こうやって語っているさ中、脳裏にあの不気味な男の子の絵と文字が、まざまざと浮かんでまいります。
【完】
キツネ◆8yYI5eodysさん、ありがとうございました
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りほ◆aZ4fR7hJwMさん、第六十八話をお願いします
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