わたくし ◆Zdj8zv6ZT 『紫煙』
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さて、わたくしは喫煙者でありまして、最近は肩身の狭い思いをしております。
とは云え、わたくしが吸い始めた頃より風当たりは厳しくありましたので、
これは甘んじて受け入れ、ただ自分のみルールを守れば良いと確信しております。
しかしどうも、煙草の、この煙というものは嫌なものですね。
例えば出張前に新幹線を待っている時、喫煙所で一服して待機しているのですが、
(ああ、けむい。けむい。けむい)
と、自分から飛び込んだ箱の中で苦しんでいるわたくしでして……。
さて……。
紫煙というもの、嫌がるのは人間様だけかと思っていたのですが、
「ハブが来る。煙草は点けたままで」
どうやら違うようだと気付いたわたくしでありました。
先のお話は去年、そう、東北大震災の御盆に体験したことで、
「それならば」
今年になって試したことがあるのでございます。
わたくしが現在住んでいる家、これは何の変哲もないマンションであります。
曰く因縁、他殺自殺諸々と関係ございません。実に平和な我家でありまして、
「それでも友人が来ると……」
引用元: ・【8月18日】百物語本スレ【怪宴】
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様子が変わるのでございました。
例えば、
「髪洗ってる時に悪戯するなよ」
「トイレ入ってる時に電気消しただろ」
「煙草買ってくるとか言って、外から窓ぶっ叩いて行くな!」
「布団入ってから携帯はやめてくれないか」
など、分かりやすい例を挙げるとこのようなことでございます。
しかもこれが何度も続きますので、さすがに相手も妙だと気付くのでしょう。
「お前の家、何なの?」
わたくしの家は幽霊屋敷ではあるまいか、と同僚に噂が拡がっておりました。
しかしそこは営業一課の人間達、その程度で人間関係が崩れる事はありませんでしたが、
「いや、お前の家にはもう行かねえよ。今度から俺の家で宴会だ」
と、上司に宣言された時は心細さに駆られ……。
その日の宴会では通常の五倍速で呑んだためか、非常に、その……ねぇ。
さて……。
わたくしがこの事実を払拭しようとしたのは梅雨時でありました。
同期一人を連れ、屋内で煙草を吸って過ごしただけなのですが、
「家ん中、解禁したんだ。いつもは庭なのに」
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この事です。わたくしは、たとえ上司と云えども屋内での喫煙を許しませんでした。
「吸うならば庭に出ろ、出なくば吸うな」と口酸っぱく、嫌な小僧であります。
「うん。もう拘らない事にしたんだわ」
「へえ……まあ、どういう心変わりか知らないけど」
黙々と煙草を吸い、適当にDVDを見て、真昼間からビール缶を空け……。
時間もそろそろ15時を数える頃……だったでありましょうか、
「あれ、お前、猫飼ってたか?」
同期の一言であります。
「は?」
「いや、だって、ほら、猫、猫」
彼が煙草を持った手で玄関の方を指差しますと、
「……猫だ」
猫がおりました。
一匹の、薄暗い廊下の中、三毛猫らしく茶目っ気があり、
彼らの目は光ると申しますが、成程、確かに半眼が光っていて、
「どっから入ってきたんだ」
「え、お前の飼い猫じゃないの?」
「違うよ。うちの会社で働きながら生き物飼ったら、ひと月で死ぬだろ」
など会話を交わして、ふと視線を上げると、
「居ねえ」
先程まで居たはずの猫は居なくなっておりました。
同期と二人で家中を隈なく探しましたが、当然、見つかることはなく……。
この日を境にして我家の「友人が来たときだけ心霊現象」は鳴りを潜めたのでした。
猫は人に付かず、家に付くと云いますが……少々、悩ましいことではあります。
亡者に生者の領域を束縛されるということは断固お断り致します。
ですが、どうも……相手が犬猫であると考えると……どうも……その……。
【了】
128 :月明 ◆vQGKKdpBnE :2012/08/18(土) 23:53:22.93 ID:zKNb9dnH0三十七本目の蝋燭が消えました・・・
わたくし ◆Zdj8zv6ZTさん、ありがとうございました
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黒靴 ◆c6TvSatgXEさん、第三十八話をお願いします
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