引用元: ・死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?286
今から20年ほど前の話しです。
当時の私には5歳下の彼女がいまして、少し離れた場所-遠距離とまでは
言えませんが、車で3時間ほど離れた場所に住んでおり、仕事の忙しさも
相まって会えるのは月に1~2度という感じでした。
私の住んでる土地は自然しか取り柄の無いような海辺の田舎町で、都会っ
子の彼女はそんな素朴な田舎町の山や海で遊ぶのが大好きな子でした。
そんな彼女と付き合い始めて初めての纏まった連休-お盆休みに起きた不
思議なお話しです。
「お盆休みどうしよっか?」
「うーん、ゆっくりと会えるんだしキャンプとかしたいなー」
「海でバーベキューとか?」
「うんうん!そういうの好き!」
さて、彼女には姉と歳の離れた小学生の弟が居まして、付き合ってすぐ
に紹介されており、どうせなら姉と弟、姉の彼氏も一緒に誘ってはどう
か?という私の提案に彼女も賛成してくれまして、5人でキャンプをす
る事となりました。
「何処にしよっか?少し遠出して○○海岸でも行く?」
「うーん・・混んでるとこは嫌だしなぁ・・そうだ!○○君の家の近く
の海にしない?」
「ええ・・あんな辺鄙なとこでいいの?」
「うん!近くにコンビニもあるし、銭湯もあったよね?ばっちりじゃん!
雨になったら〇〇君ちに行けばいいし!」
海と言っても海水浴場ではなく、釣り客がたまに来る程度でしたが、昔
は観光客を呼びこもうとしたのか、海の家のような廃屋が幾つかある海
岸に決まりました。
その後、仕事に追われ幾日か過ぎてやっと迎えたお盆休み初日の朝、彼
女の兄弟と姉の彼氏を迎えに彼女の町まで車を走らせました。
「晴れて良かったね!」
「僕、キャンプ楽しみにしてたんだ!おにーちゃんありがとう!」
車中ではしゃぐ兄弟達と、仕事疲れなのか、そうでもない暗めな表情の
姉彼と・・そんな楽しい時間も過ぎ、目的地の海に到着しました。
「わーーー海だーーー」
「きゃーーーーーつめたいーーーー」
「おおーーー」
はしゃぐ兄弟たちを眺めながら、男性陣はテントを建てたり釜戸を作っ
たりと、準備に勤しむ楽しい時間が過ぎていきました。他にはそれらし
い人は居らず、時折漁師の車が通るくらいで本当に静かな海辺でした。
やがて時間は過ぎ、夕食のバーベーキューは陽が落ち始めた頃となりま
した。当時はまだ市販のバーベキューセットなどもあまり無く、砂浜に
石を積み上げたお手製の釜戸で、なかなか火が起きずアタフタしてる男
性陣に割り箸を持ちながら「はやくーーー」という兄弟たち。
「このエビ美味しい!」
「焼肉も外で食べると格別だね!」
楽しい時間は過ぎ、日は完全に落ちて真っ暗な中にバーベキューの火だ
けがゆらゆらと灯してる、ゆったりとした時間が過ぎていきました。
ふっとトイレ-といってもその辺でするしか無いのですが、立ち上がろ
うとした時でした。点在してる海の家らしい廃屋に灯りが点っているの
が見えたのです。
ただ、廃屋っぽくは見えますが、実際は漁師が倉庫に使っていたりなど
人の出入りがある建物がある事も知っており、普段は特に不思議には思
う事でもないのですが、ちょっと様子が違いました。
その廃屋には大きめの窓が有り、数人の人間の顔が1本のロウソクを囲
んでいるのが遠目にも解りました。不思議な事にその顔の表情も見て取
れるくらいはっきりとしていたのです。
一瞬ゾクっとはしましたが、あまりに鮮明に見えるので「町の若い衆が
肝試しに百物語でもやってるのかな」などと思いました。
-せっかくの楽しい時間だし、気にしないでおこう-
ちょっと離れた場所で用を足し、みんなの所に戻りました。
「よし、花火やろっか」
「やったー!」
「花火花火!」
大量に買った花火をどんどん消化し、わいわいと楽しんでる皆を横目
に、どうしてもさっきの廃屋が気になりチラ見をすると、まださっき
の状態のまま、ロウソクを囲んでる幾人かの頭が見えました。
20m以上は離れていたと思うのですが、何故か私にはその表情や目
の向きなどがはっきりと見て取れていました。運転手の私はもしもの
時の為にお酒は飲んでおらず、そういった意味での勘違いでも有りま
せん。とにかく、はっきりと見えたのです。
-ニヤっと笑いながら手招きをしてる男性の顔を-
「これはヤバイな・・・」そう思った瞬間でした。
夕立にも似た激しい雨が振ってきたのです。
みんなテントに逃げ込み、各々タオルを出して頭や身体を拭きました。
「うわー濡れちゃったね」
「うん、でもこれはこれで旅の思い出だよ!」
「うんうん!だよね!」
私は先ほどの廃屋の件がどうしても気にかかり、雨だし帰ろうと促しま
したが、大丈夫大丈夫と寝袋の準備をしだす皆。私も諦めて寝袋に入り、
いつしか眠りにつきました。
翌朝の早くに目が覚めた私は、まだ寝息を立てている皆を置いてテン
トから抜け出し、昨日の廃屋を確認する事にしました。外はもう明る
いので恐怖などは無かったのですが、近づくにつれ息が重くなるのを
感じました。
昨夜、あの顔が見えた窓際に立ち、中を見ました。
-これは・・・どういう事だ・・-
そこには部屋中にびっしりと詰め込まれた廃材や網、とにかく天井
まで届くくらいのゴミがいっぱいで、とても人間が入れるスペース
など全く無かったのです。
そう大きくも無い建物の周囲を確認しましたが、中へ入れるであろ
う戸には固く留め木が打ち付けてありました。
-まぁ・・これでも旅の思い出か・・彼女らには内緒にしておこう-
テントへ戻り、大雨でバーベキューや花火の後片付けをしていると
皆が起きだし、おはよ~とボーっとした声で折りたたみの椅子に座
り「朝ごは~~ん~~」と催促。
その後、海で遊んだり釣をしたりと昼過ぎまで遊び、姉と姉彼、弟
を家まで送り届ける帰路につきました。
その車中は楽しかったキャンプの話しで盛り上がりました。
「来年も行きたいね!」
「来年まで俺ら付き合っていれば・・ね」
「ひどーい」
「あはははは!」
「そういえば、久しぶりにお爺ちゃんの顔見たね」
-ん?-
「うんうん、あっち行っても楽しそうにやってるみたいだったね」
-何の話ししてるんだ?-
「しっかしさぁ、孫の彼氏を見に来なくてもいいじゃん」
「だよねー」
「ちょ・・・お前ら何の話ししてるんだ・・?」
「あれ、〇〇君には見えなかった?あの海さ、霊場なんだよ」
「え?え?」
「お盆で生前の家に帰る前に、集まってたみたい」
「え?え?」
「私達が居るから○○君にも視えたはずだけど・・・」
訳も判らず、兄弟たちが話す会話にただただ驚愕してる私の肩を
ちょんちょんと叩く姉彼。
「この兄弟ね・・なんかの末裔で視えるらしいのよ」
「えっと・・え?」
「大昔、霊を祓ったりする部族が居て、その末裔らしい。だから
嫌だったんだ・・こいつらとキャンプなんて・・・」
姉彼はこれまでも同じような場面に遭遇したようで、姉が希望す
る旅先は、どこそこの霊山だの廃墟だのといったものばかりで、
たまに普通の温泉地などを希望したときも、その温泉地自体が火
山の噴火で大勢が亡くなっており、霊がうろうろしるなどと聞か
されたり怖い思いをしてきたらしいです。
恐恐と後ろの席に居る彼女をルームミラーで見ると、「また来よ
うね!」と何時もの可愛い笑顔・・・か?
姉と姉彼、弟を送った後、俺と彼女は残りのお盆休みを消化すべ
く、とある田舎町にある温泉街へ向かうのでした。
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このお話しはこれで終わりです。
その後3年ほど彼女とお付き合いし、怖い思いも何度かしました
が、別れた原因は至って普通の理由でした。
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